2022.7.22
「安らぎ」「癒し」を与え、その時々で表情をかえる木材。日々の暮らしから良さを実感。
――大正町の喫茶店のデザインをきっかけに上田建築事務所に依頼したというNさん。
Nさん宅も光と風が吹き抜ける開放的な空間に仕上げられています。
「比較的太い部材を使用し、構造的にも完成された納屋型の我が家。部屋の隅が壁でなく、 ガラス窓になっているため、より解放感があると思います。ですが地震の時のガラスの飛散が気になるので、5年ほど前に2階の窓ガラスを合わせガラスにかえました。その時にお願いしたサッシ屋さんがおっしゃっていたのが「窓が多い家なので、建付けが狂い、サッシも外しにくいと思っていたが、全然狂っていなかったですよ」とのこと。プロの目からの見た コメントにとても安心感を覚えました。」
――土佐派の家の良さを実感していただいているようですが、暮らしの中で気になったことや特に皆さんに伝えたいことなどはありますか。
「欠点は、裏返せば長所にもなることを前提に述べさせてもらうと、2階の床と1階の天井を厚みのある無垢材で共用する構造なので足音の響きの問題はありますね。また、土佐派に代表される木の家は自然との一体感があり、この家の場合も特質の一つです。中でも気温や風との一体感をどう感じるかは、その人の主観にもよりますが・・・。
伝えたいことは今まで述べさせてもらったとおりですが、次のことを補足したいと思います。
この家で育った娘が、社会人となってこの家に帰るとホッとすると言っていました。その娘は、木と漆喰の家を5年前に建てました。通常のアパートの住空間の体験から、自然素材である木と漆喰を選択したのです。」
――木の家は自律神経のバランスを整える効果があると言われています。住み慣れたご実家の安心感もあるでしょうが、木と漆喰の家を選んだことは、幼い頃から自然素材に触れ、その良さを実感したことも大きいでしょうね。
これから家づくりを考えている方に何かアドバイスはありますか。
「近隣で新築住宅が増えていますが、傾向として賃貸費用を月々に返済する感覚で、短期間の工期で建築しているように見受けられます。資金あっての家づくりですが、物ごとを多面的にとらえることも必要と感じています。例えば高級車に乗るとステータスを感じるように、家も費用対効果を考えてみる。車は嗜好性が高く、家は必然性が高いものですから。
また、同じような大断面の構造体でも木はコンクリート等の無機質素材と違って、威圧的でなく、柔らかさを併せ持っています。そして、何よりも『安らぎ』や『癒し』を与えてくれます。年輪など木目を見ていると、見る角度や陽の当たり具合によって表情がかわり、無限の印象を感じることさえあります。」
――上田さんのデザインに惹かれ、木材の良さを知るNさんから、今後の活動に向けてのアドバイスもいただきました。
「自然素材に関心のある若い方はいらっしゃると思います。学校をはじめ、公共施設も木造建築が増えてきました。これからはさらに森林・林業団体と連携して、木材は他の素材にはない『掛け替えのない良さがある』として子供のころから木に触れさせることが大事ではないでしょうか。例えば、小学高学年を対象にした建築過程の見学会などを行ってはどうでしょうか。」
――今回、Nさんの温かいお人柄に甘え、上田博史氏(上田建築事務所)と山本効氏(勇工務 店社長)も同席し、家づくりの話をいろいろと聞かせていただきました。お話のなかで、「絵画等に作者の意図を感じるように、「土佐派の家」は、自然素材を扱う職人(加工者)の個性が潜在していると思うこともあります。」と洞察に富んだご主人からうれしいお言葉もいただきました。
旅行先で買い求めたというお気に入りの絵画や工芸品を飾り、日々の暮らしを愉しまれているNさんご夫婦。家づくりの参考になるお話をありがとうございました。